うたかた。

小説散文ときどき日記

しりとり

「なぁ、しりとりしようぜ」

 

 突然隣で膝を抱えていた斎藤がそう切り出した。こんなに大勢人が集まっているのに知っているのはこの斎藤しかいない。
 いや、まだ知り合いがいるだけましなのか。避難所は人でごった返していた。娯楽もないここではたしかにそういう暇つぶしがいいのかもしれない。

 

「リス」
「スイカ」
「カラス」
「スズメ」
「メロス」
「すだらけだな……」
「なんだよもう降参か?」

 

 近くにいるおばさんが楽しそうにしている俺たちを恨めしそうに見た。その顔は煤と泥で汚れている。服もボロボロだ。命からがら逃げ出してここにたどり着いたのだろう。

 

「スルメ!」
「メダカ」
「カモメ」
「めんたいこ」
「コイ」
「インコ」

 

 そういえば、俺の家で飼っていたインコのサクラはどうしただろう。考えるまでもないか、きっと死んでしまっただろう。きっともう、家に戻ることもできない。

 

「こよみ」
「なんだそりゃ」
「いいだろ別に」
「ミミズ」
「ず!?ず、ず……随筆!俺天才!」
「うるせー。ツグミ
「ミミズク」
「ミミズクってなんだっけ」
「ふくろうだよ」
「クルミ」
「またみかよ!」
「ふっふっふっふ」
「ミサイル!」

 

 そう叫んだ瞬間、頭上で派手な爆発音がした。誰もが竦み上がり、連続して起こったそれに女性の悲鳴と子供の泣き声が続く。地下に作られたここは低音が特に響きやすい。きっと言葉通り、ミサイルがどこかに落ちた音だ。

 

「おい、そういう単語はやめようぜ」
「ごめん」
「る……ルリ」
「リンドウ」
「う…うなぎ」
「銀河」
「眼球」
「宇宙」

 

 今地上では、宇宙からやってきた変な生き物と戦争をしている。あいつらは人間を食う。母はそいつらに食い殺された。父は戦争に駆り出されている。多分死んだだろう。やつらはあまりにも数が多い。

 

「ウシ」
「死にたくない」

 

 突然の斎藤の言葉に、俺は思わずやつの顔を振り返ってしまった。多分、無理だということをここにいる誰もが知っている。

 

「ほら、いだぞ」
「生きたい」
「ああ」

 

 人間は負ける。やつらに食われるか、食料として保管され生きながらえるか、どちらかだろう。家畜と同じように。

 

「痛くないといいな」
「ああ」

 

 その言葉に、近くにいるおばさんや他の人が泣き叫び始めた。時間の問題だ。遅いか、早いか。最後の時間、案外楽しく過ごせたので、斎藤には感謝したいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

(妖怪三題噺様より「ミミズ」「ミミズク」「ミサイル」https://twitter.com/3dai_yokai