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うたかた。

小説散文ときどき日記

ホットチョコレシピ(二人分)

三題噺

 私は料理が好きで、台所が好きだ。楽しくても悲しくても嬉しくても寂しくても、私は毎日ここで何かを作り、食べ、片付ける。手の込んだ料理の日もあれば、カップ麺やお茶だけの日もある。時には立ったまま、そこで牛乳を飲んだりアイスを食べたりする。それらは全て、私の心を落ち着かせてくれる。

 

 ざくざく。一定のスピードで包丁を動かして、ビターチョコレートを細かく刻んでいく。

 

 私は料理の中でも、包丁で食材を刻むのが好きだ。フードプロセッサーなんていらない。細かくなるまで、自分の気がすむまで、私はひたすら黙々と包丁を動かす。集中してる時とリラックスしてる時の脳波は同じらしい。たしかにこの時間はとても心地がいい。

 

 鍋に牛乳300ccをいれて、火にかけた。

 

 いつもはホテルでしか会ってくれない男が、今日は私の部屋へ来るという。うきうきとしていた気分は、板チョコをまるまる1枚分刻み終わった頃にはとうに落ち着いていた。もう、今日で終わりにしよう。男と会うのは最後にしよう。

 

 沸騰した牛乳に、細かく刻んだチョコレートを落とし込んでいく。

 

 男がくれる愛は、いつもチョコレートのように甘くて苦かった。
 甘いだけでは胸焼けがすると嘯いていた幼い私は、もうとっくにいない。あとに残る苦味も、もういらない。私は彼の一番には永遠になり得ない。夢を見せてもらったことには感謝している。だからこそ、このままで、美しいままで終わらせたい。

 

 全てが終わったら、今日は小説の主人公のように台所で眠ってみようかと思い立つ。毛布にくるまって、冷蔵庫の影でひっそりと。心ゆくまま眠ってみたい。素敵な夢が見られそうだ。

 

 どろどろに溶けたチョコレートに、とっておきの隠し味を垂らした。

 あとは生クリームとマシュマロを添えて、出来上がり。

 

 

 

 

 

 

(妖怪三題噺様より「ホテル」「チョコレート」「包丁」https://twitter.com/3dai_yokai

(隠し味はブランデーかラム酒がおいしいよね)