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うたかた。

小説散文ときどき日記

鬼も福も内にある

三題噺

「ねぇ琉偉、鬼っているのかな?」
「え……うちの母親?」
「そういうのじゃなくて」

 スーパーでの買い出しの途中、突然紗夜がそう呟いた。彼女の視線の先に、節分の特設コーナーで赤い鬼のお面が飾られていた。スーパーの恵方巻きが豪華で美味しいというので今日の晩御飯に買いに来たのだ。

「神様だのそういうのは俺じゃなくて師匠の専門なんだけど、前うちの母親に憑いてたんだよ」
「憑くの?」

 一気に紗夜の表情が「聞くんじゃなかった」というものになった。彼女が怖い話を忌避するのは、話すとそういうものが寄ってくるというのを無意識にわかっているからだ。

「俺が見たのは、父親の職場の女の人の生き霊だった。父親に片想いしていたらしいんだけど、嫉妬に狂った顔がまさに鬼の顔をしてた」

 ごくり、と紗夜が唾を大きく飲み込んだ。怯えているのがかわいい……かわいそうなのでそろそろこのへんにしておこう。

「紗夜のおすすめの海鮮恵方巻き、松竹梅ってあるけど、どれにする?」
「松!」
「豆は買う?前紗夜これ嫌いって言ってたけど」
「買う!食べる!」
「節分の豆まきはつまり邪気払いだからね」
「撒く!」

 紗夜がこんなにビビリだから、俺はずっと君には鬼なんかよりもっとものすごいとんでもないものが憑いてるんですよ、というのを言えずにいたりする。

 

 

 

 

 

(妖怪三題噺様より「節分」「松竹梅」「母親」https://twitter.com/3dai_yokai

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