スマイルプリーズ
「琉偉は、紗夜ちゃんのことがすきなの?」
突然の、師匠の容赦なく突っ込んだ質問に、俺は思わず奢ってもらったコーラで噎せそうになった。汚いなと文句を言いつつ紙ナプキンを数枚渡してくる。
「……そりゃあ、まぁ」
「告白しないの?」
口元をそれで拭いつつ、師匠を見れば嬉しそうにニヤニヤしている。これはあれだ、わかった、師匠の暇つぶしというやつだ。あるいは俺をからかって遊んでいるんだ。
「俺と紗夜は、そういうのではないんです」
「そういうの?」
「クラスの奴らみたいに、簡単に告白して付き合って、デートだなんだって舞い上がって、それなのにちょっとしたことですぐ喧嘩別れするような」
「じゃあ君のそれは、どういうのなんだい?」
「……俺のは、親心に近いのかもしれません」
ただそこに彼女がそのままで居てくれればそれでいい。生きていてくれれば、彼女という存在がいるというそれだけでいい。
「紗夜と付き合って浮かれたり失敗したり裏切られたり、そういうのは想像できない」
でもそれは、それだけ俺が彼女のことをよく知っているからだ。幼馴染で、付き合いが長いから、そもそも知らないことも少ない。知ってがっかりするどころか、そんな一面もあったんだって嬉しくなるだけだ。
「多分、紗夜もそうだと思う。告白した所で今更だと思ってるんじゃないかな。だからあえて他のやつらと同列に紗夜と軽々しくくっつきたいと思わない」
「ふーん」
「俺は紗夜を一人の人間として尊敬しているし、それこそ彼女だ恋人だっていう枠組みに当てはめたくないんです」
「うーん」
「毎日会えなくても、言葉を交わせなくても、顔が見れなくてもそれでいい。ただ彼女がそこにいるという事実だけでいい」
「欲はないの?」
「彼女に対して欲を持つことすら烏滸がましい」
もそもそとハンバーガーを咀嚼しながら適当に相槌を打つ師匠に、やっぱり暇つぶしだったのだろうと話題を終わらせようとしたら、ふと師匠がぽつりとこぼした。
「君の恋慕は、まるで宗教みたいだね」
「宗教?」
「自分の恋愛感情を小綺麗に飾り付けて、相手を神棚に祀って拝んでそれで本当に満足か?」
適当なのか真面目なのかどっちなんだ。突き刺さる視線に返答に困って、氷が溶けて少し薄くなったコーラをストローで吸って飲み込んだ。
「そうやって他の野郎にかっさらわれて泣くなよ」
「泣きません」
「嫉妬しないの?」
「紗夜がそいつがいいって言うなら祝福しますよ」
「でも彼女はお前がいいんだろう?分かってるよな?惚れた女ひとり安心させてやらずに男名乗ってんじゃねぇ」
もしかしてこの人酔ってないか?と思いつつ言われてることがもっともな気がしてきて、俺はただ正座して説教を聞いている気分だった。この人には何を言おうとも敵わない。
「……好きっていうのはちゃんと伝えようと思います」
「よしポテトを奢ってやろう」
nina_three_word.
〈「宗教みたい」を含んだ台詞 〉