うたかた。

小説散文ときどき日記

歪なメビウスの輪

 私は、双子なのにすべてにおいて私よりも優れている妹が嫌いだった。だから私は双子でも彼女を佑莉ではなく、妹と呼ぶ。

 

 妹は背が高くてやせている。私はといえば全然背が伸びず、なのに妹よりずっと太りやすい体質だ。まったく同じ食事、運動、同じ生活習慣なのに。
 妹はモデルのような二重瞼で、鼻が高い美しい顔をしているのに、私はどこにでもいる一重瞼で団子っ鼻だ。妹は私よりも両親に愛されている。同じはずの双子なのに。同じなはずなのに、私と妹は似ても似つかない。妹は友達も、彼氏も、両親の愛情も、すべて持っている。なのに私を姉と呼ぶ。

 

「お姉ちゃんはすごい」

 

 小テストで満点を取ったくらいでそんなことを言われたって、どうせ母親は妹のテストを見て「また次頑張ればいいじゃない」と慰め役に回るのだ。別に妹は落ち込んでなんていないし、小テストごときなんとも思っていないのに。

 

「えっ本当に双子なの?」

 

 もう聞き飽きた台詞を妹の彼氏に吐かれる。私が年子だとか腹違いの姉ならよかったのにと本当に思う。どうして私はこの妹と同じ時期に母の腹に宿ってしまったのだろう。ひとりずつ生まれたらよかったのに。

 

……否、いっそのこと生まれなければよかったのに。

 

 それを呪ったのは、私自身に対してであってほしい、と切に願う。そこまで堕落していたくない。それだけが私の矜持だ。

 

 だから妹が交通事故に遭った時、そんな自分の心の闇の声を間違えてきいてしまった神様を恨んだ。彼と自転車の二人乗りをして下校していたらしい。壊れたブレーキが言うことを聞かず、赤信号に突っ込んでいってトラックにはねられた。私を鼻で笑った妹の彼氏はその事故で死んだ。かろうじて生きているという体の妹は、全身の骨が折れると同時に、右の顔が大きく抉れて別人になってしまった。

 

 その日を境に、彼女はとても卑屈な性格になった。そしてそんな彼女を支えるために、私はどんな恨み言も己の心に持たなくなった。これではまるで、すっかりその心が入れ替わったようだ。否、もともと私たちはふたつがひとつで生まれたのだから、きっと違いなどないのだろう。

 

 彼女は生まれてから死ぬまで私の半身で、そして私と彼女が同じ人間だからこそ、永遠に私と彼女はかみ合わない。いつもどちらかがどちらかの光になり影になる。同じ形であっても、私たちはいつも、名前に似合わず左右の釣り合いがとれない。そういう運命なのだろう。

 

「お姉ちゃんはずるい。お姉ちゃんは私と違ってなんでも持ってるもの」

「何言ってるの、私たち双子でしょう?」

 

 今日も、私は彼女の病室に花を飾りに行く。その度に、姉は泣き腫らした顔で恨めしく私を見る。私たちは似ているなんてものじゃない、そっくり同じだ。彼女もまた、私を佐莉、ではなく姉と呼ぶのだから。

 

 

nina_three_word.

アシンメトリー