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うたかた。

小説散文ときどき日記

どきどきクリスマスディナー

三題噺

「ねぇ、紗夜のとなりにさ」
「……え?」
「外国人の霊がヨダレ垂らしてこっち見てる」
「えええええええ」

 

 幼馴染の琉偉はいわゆる見える人である。昔から好奇心旺盛でなんでも知りたがりだった幼い頃の私は、そんな琉偉の見ている世界を事あるごとに面白がって訊ねていた。そのおかげで今では、彼は見えているものを事あるごとに私に報告してくれるようになったのである。
 でも心臓に悪いから突然教えてくれるのは勘弁してほしい。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ!

 

「何語だろう、何言ってるかわからない」

 

 でも嫌な感じはしないから害はなさそう。と続ける声にすこしほっとする。

 オーブンで焼いたローストターキーをちょうど切り分けていた所だった。日本では主に鶏肉を使うけれど、一度本場の七面鳥を食べてみたかったので、奮発して通販で取り寄せてみたのだ。こんがり綺麗に焼けた。香ばしい薫りがおいしそう。
 どうやらこの外国人はこの七面鳥につられてどこからかふらふらと現れたらしい。……ということでいいのだろうか。

 

「えーと、お腹減ってるの……かな?」

 

 琉偉が何度か英語で話しかけているようだが言葉が通じていないみたいだ。そもそも幽霊もお腹が減るんだろうか。体のない幽霊がどうやって空腹を満たすのだろう。それともお供えみたいなもので、もらえるだけで満足なのだろうか。なんとなくそちらの気がする。このまま無視して食事を続けるのもなんだか居心地が悪い。

 意を決して、私はよしっ!と立ち上がった。

 

「琉偉、この辺?」
「うん」
「外人さんも、よかったらどうぞ」

 

 自分用に取り分けていた皿を、琉偉が示した外人さんがいるあたりのテーブルに置いた。途端、机の真ん中に置いていたキャンドルが激しく燃え上がった。

 

「すげぇ本物のポルターガイストだ。喜んでる喜んでる」

 

 吃驚してひぃっ!と飛びすさった私とは打って変わって琉偉は目をキラキラさせて楽しそうだ。喜んでくれたのは何よりだけど心臓に悪いからやめてほしい。思わぬ乱入者と怪奇現象にさっきからずっと心臓がばくばくしている。

 

「……折角だから椅子も持ってこようか?」
「うん、お願い」

 

 恐る恐る琉偉に聞いたら嬉しそうに頷くので、別の部屋へ取りに行った。折角幼馴染兼恋人との水入らずだったが、琉偉が楽しそうなのでまぁよしとしよう。来てしまったものはしょうがない。話も通じないみたいなので帰ってくれとも言えない。ここはお腹いっぱいになって満足してどこかへ去ってもらうとしよう。


「はい、どうぞ」

 

 向かい合わせの私たちの片側に机を置くと、今度は戸棚がガタガタと音を立てた。嬉しいのはわかったからやめてください。心臓が止まります。

 

「紗夜」
「なに?」
「紗夜のそういうとこ、だいすき」

「っいいから、冷める前に食え!」

 

 もうすでに熟年夫婦みたいな私たちだから、琉偉が素直に気持ちを表現するのは珍しい。照れ臭い私は誤魔化すように、ひたすら見えない幽霊へのお世話を焼いた。シャンパンを注いだらリースが落ち、ブッシュドノエルを差し出したら点滅していたツリーの電飾が一斉に輝きだした。


 怪奇現象、私の悲鳴と琉偉の笑い声。3人の奇妙なクリスマスの夜はこうして更けていった。

 

 

 

 


(妖怪三題噺様より「七面鳥」「幽霊」「3人」https://twitter.com/3dai_yokai