うたかた。

小説散文ときどき日記

2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

見分け方

仕事で帰りの遅い紗夜を気遣って、「今日は俺が冷蔵庫の物で晩御飯作るから」とSNSでメッセージを送っておいた。 「ただいま!ご飯何?」 帰ってくるなり興味津々の彼女をとりあえず椅子に座らせて、俺はひとつひとつ料理を差し出す。今日は和食にした。 「…

染まる珊瑚

「おっさん」は、その名の通り僕の親戚のおじさんだ。辺境の島で染物職人をして生活している。 僕は夏休みになるとおっさんのところへ遊びに行くのが楽しみだった。お正月のおじいちゃんおばあちゃんの家よりずっとだ。おっさんとこの島が好きだ。 島に来た…

親バカ

恋人の由美さんには、茉莉ちゃんという小学生のかわいい女の子の子供がいる。 仕事の都合で遅れてしまうので、茉莉ちゃんの学芸会に先に行ってビデオを撮っておいてほしいという。俺は彼女の父親ではないのだが、いいのだろうか。まだ由美さんとも籍を入れて…

乾杯

あとでうまいものを食わせてやるから、パーティーに一緒に行かないかと誘われたのがはじまりだった。暗号化された招待状は、友人の大輔がオークションで競り落としたものだ。どういう経緯なのかは俺もよくは知らない。面白そうだからという理由で、怪しい物…

友達が死んだ。

友達の祐一が死んだ。交通事故死だった。 中学からの古い仲であり、当時仲の良かったメンバー数人と一緒に葬式に参加することになった。のはいいのだが、俺は少しげんなりしていた。式場に入って早々いやな気分に見舞われる。肩が重いし頭痛が酷いし吐き気は…

深淵の人魚

学校のプールには人魚が住んでいる。けれど人魚は誰にでも見えるわけではないらしい。人魚に出会うためにはいくつかの条件が必要で、プールに来る時に決まった道順を辿らないといけない。それでもいる時と、いない時がある。 人魚がいる時は、プールの水が淡…

酒は飲んでも呑まれるな

「え、相良くんAB型なの?」 大好きな先輩の送別会で、話題は血液型の話になっていた。A型やO型ならまだしも、B型やAB型はこの話題は肩身が狭い。 「二重人格なんだ?」「そんなことないですよ」 そもそも、4種類しかない血液型に対して性格を割り振るとい…

白に染まる世界

猛吹雪の中出勤して、その影響による激務で疲れ果てた翌日の日曜日。明け方まで夜更かししていた私は昼過ぎにようやく目覚めた。窓から外を眺めて、広がる白銀の景色に前日とは打って変わってテンションが上がる。十年ぶりぐらいだろうか、この地域では珍し…

箱庭

私は妖怪の主に飼われている。 通学の近道をしようと路地に入り込み、迷い込んだ果てに辿り着いた、その不思議な世界。人食い鬼に追いかけ回されていた所をその気まぐれな主様に助けられた。 人間を食べる生き物がたくさんいるこの世界で、どうして私を生か…

邪気払い

「おは……どうしたの?」 朝食の支度をしていると、琉偉が眠そうに起きてきた。今にも倒れそうな顔色をしている。その目の下にはがっつりと濃い隈が。テーブルについたと思ったらそのままずるずると突っ伏してしまった。 「んー……」「何かあった?」「いや、…

シガレット

おじさんは、私が保育園の時からママの恋人をしている。いつものちくちくのヒゲ。くたびれたシャツ。お酒は飲まないけど大のつく愛煙家とやらで、私の保育園のお迎えに咥えタバコで園内までやってきて先生に怒られたりもした。 「おかえり」 小学校に上がっ…

どきどき追いかけっこ

私はいつも、暇さえあれば斜め向かいの家に行く。物心ついた頃から第二の家のように通っている神代家には、珍しいオスの三毛猫がいる。 そう、私はいつも猫を目当てに行くのであって幼馴染の琉偉は二の次だ。優しいおじさんとおばさん、かわいい三毛猫のミケ…

キスにご執心。

「ねぇ琉偉知ってる?」 学校からの帰りの電車で、突然隣に座る紗夜がこちらに乗り出してきた。勢いよく動くから彼女の持ってるリプトンのパックが溢れないかが気になった。 「何が?」「キスするとストレスホルモンが急激に下がるんだって」 そう言われてつ…

ホットチョコレシピ(二人分)

私は料理が好きで、台所が好きだ。楽しくても悲しくても嬉しくても寂しくても、私は毎日ここで何かを作り、食べ、片付ける。手の込んだ料理の日もあれば、カップ麺やお茶だけの日もある。時には立ったまま、そこで牛乳を飲んだりアイスを食べたりする。それ…

しりとり

「なぁ、しりとりしようぜ」 突然隣で膝を抱えていた斎藤がそう切り出した。こんなに大勢人が集まっているのに知っているのはこの斎藤しかいない。 いや、まだ知り合いがいるだけましなのか。避難所は人でごった返していた。娯楽もないここではたしかにそう…

「さようなら。」

今日の一番は、恋人から届いた「俺たちの関係を考え直そう」というメッセージがはじまりだった。深夜に送られていたそれに、どういう意味かと問う返信をしたが既読がつかずにいる。胸の内に煙のようなものがもやもやと立ち上りはじめた。 次に、この冬一番の…

どきどきルーシー連想ゲーム

俺の彼女は変わっている、と思う。 「ルーシーかわいいよね」 餡パン片手にテレビを見ながら、突然紗夜がぽつりとこぼした。ちなみに彼女はお笑いの番組を見ていた。誰だ、ルーシーって。テレビに映る人物にはそんな外人の名前をしているであろう顔は見当た…

小林くん

「おはよう古賀君!」 「……おはよう、」 キラキラと振りまかれる笑顔が直視できなくて、僕はそっと目をそらして挨拶した。けれど彼はもう他の生徒への挨拶回りで忙しく、僕の方を向いてなどいない。 僕は、小林くんが苦手だ。クラスの人気者である彼はいつも…

十八歳、海の底。

男は、私を片腕に抱いて眠っている。触れあっている剥き出しの肌はまだ、十分な熱を持っていて、しっとりと濡れていた。二人でくるまったタオルケットごしに、時折吹き込む冷房の風が心地いい。 男の寝息に合わせて、ゆっくりと呼吸をする。目を閉じて、長い…

禁断の果実

「ようこそおいでくださいましたお嬢様」 ああこれは夢か、とすぐに気付いた。真っ黒闇にスポットライトを当てた空間に、男が一人、立っていた。タキシード姿の男は顔に白塗りの、ピエロの化粧を施している。その男が被った帽子を手にとって、恭しく礼をした…

合わないレンズ

「私、結婚するんです」 最近度の合わなくなった上に、レンズが汚れ曇ってきた眼鏡がずり落ちた。頭の中がからっぽになってしまい、放たれた言葉がその空洞に虚しく響く。目の前の彼女を恋人だと思っていたのは、僕だけだったのだろうか。だとしたらなんて滑…

カンシュ

ふと気づくと、私は見知らぬ場所にぽつんと立っていた。目の前に立つ鳥居は不気味なほど真っ白い色をしている。敷石も白い。空も白い。これは夢だろうか。 ……私は、一体何をしていたんだっけ。 泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。 ……でも、どうして、泣い…

夕陽の色

あしやくん。図書室でいつも会う隣のクラスの不思議な男の子。 こんなにきれいな男の人を、私は彼以外に見た事がない。 男の人にきれいといってはいけないのかもしれないけれど、どんな男の子よりも女の子よりも、美しい人だと私は思う。 先生と文芸部はこの…