うたかた。

小説散文ときどき日記

2017-02-01から1ヶ月間の記事一覧

歪なメビウスの輪

私は、双子なのにすべてにおいて私よりも優れている妹が嫌いだった。だから私は双子でも彼女を佑莉ではなく、妹と呼ぶ。 妹は背が高くてやせている。私はといえば全然背が伸びず、なのに妹よりずっと太りやすい体質だ。まったく同じ食事、運動、同じ生活習慣…

御馳走マグロ

「咲季はしっかり者だから、大丈夫」 最期の時、私は母とゆびきりをした。ゆびきりげんまん。そう呟く母の言葉に私は首を振る。置いていかないで。ひとりにしないで。泣いて縋りつく私を置いて、母は笑顔でこの世を去った。 母と交わした約束を守るため、私…

スマイルプリーズ

「琉偉は、紗夜ちゃんのことがすきなの?」 突然の、師匠の容赦なく突っ込んだ質問に、俺は思わず奢ってもらったコーラで噎せそうになった。汚いなと文句を言いつつ紙ナプキンを数枚渡してくる。 「……そりゃあ、まぁ」「告白しないの?」 口元をそれで拭いつ…

空白と虚無の狭間

いつから、どうしてここにいるかは覚えていない。誰もわたしを見てくれない。声を聞いてくれない。だからその男の人と目があった時、逃すものかと思った。ずっとずっと、暗いところにひとりでいて、さみしかった。 「ねぇ、聞こえてるんでしょう?」 話しか…

ピンク・レディー

「”君はひとりで生きていけるよね”だって」 そう言って男は、か弱い女の子の手を取って去った。手のグラスを揺らすに合わせて、カラカラと氷が高らかに鳴る。それを見たバーテンのお兄さんが、おかわりのお酒の準備をしてくれる。なんて気の利く店員さんだろ…

とけゆくキヲク

かつてその人は、僕が生まれた時に名付け親になってくれた人だった。ということを、本人から聞いた。お父さんの恩師だというその人を、僕はずっとおじいちゃんと呼んでいた。ちなみに本当のおじいちゃん二人は名前にじいを付けて呼んでいる。 おじいちゃんは…

夜明けを待つ背中

一家心中の生き残り。それが俺という子供の、当時持つもの全てだった。誰もがかわいそうに、と俺の身体の傷痕を見て顔をしかめる。身体中に残ったそれが、両親が俺に残した唯一のものだ。それからというもの、自分に近づいてくる人間が、すべて興味本位であ…

夢渡り

「おや、人間のお客さんとは珍しい」 おお、アライグマだ。アライグマに話しかけられた。 暗い空間を長い事歩いて、その巨大な水面にぶつかった。湖だろうか池だろうか。…流れがないけどもしかして川だろうか。岸にあげられたいくつかの小さな船に、二本足で…

桜の木の下で。

その人と出会ったのは、大きな公園の、噎せ返るような桜吹雪の中でだった。 淡い色で埋め尽くされた美しい光景に、その人だけそぐわなくて、そこだけ世界が違うように見えた。……要するに、ものすごく汚いおっさんだったのだ。 無精髭に、変な柄のシャツとカ…

鬼も福も内にある

「ねぇ琉偉、鬼っているのかな?」「え……うちの母親?」「そういうのじゃなくて」 スーパーでの買い出しの途中、突然紗夜がそう呟いた。彼女の視線の先に、節分の特設コーナーで赤い鬼のお面が飾られていた。スーパーの恵方巻きが豪華で美味しいというので今…

緑の溢れる場所

20代最後の誕生日の日、同棲していた男が他に女を作って部屋を出て行った。もう、この年齢の誕生日だなんて嬉しくもなんともない。誰かに祝ってほしいだなんて感情はとっくの昔に忘れた筈だったのに。 怒りに任せて、玄関に残った男のサンダルをゴミ袋に突…

欠け落ちた魂

「お前さん!お前さんったら!」 騒がしい声で叩き起こされて、俺は重たい瞼を上げた。知らない顔がふたつ、俺を覗き込んでいる。 「なんだぁ……うるせぇな」「なんだいその言い草は!」「いて!」 女が俺の頭をはたいた。随分と口の悪い乱暴な女だ。泣き腫ら…