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うたかた。

小説散文ときどき日記

どきどきアート展デート

三題噺

「琉偉君琉偉君」
「なんでしょう紗夜ちゃん」
「ちょっとお話があるのですが」

 紗夜は俺の事を昔から呼び捨てしているはずだが、突然謎の君付けをはじめた。ので、なにかあるだろうと踏んでいたら、やはり意味深な言葉が返ってくる。心当たりもないのにどきりとした。振り返ってみた紗夜の表情は真剣そのものだ。一体なにがはじまるのか。

「こちらへどうぞ」
「はい」

 示されたのはいつもの食卓。今は綺麗に片付けられていてなにも置かれていない。いつもの自分の席に座ってちょっと姿勢を正した。正面に同じように紗夜も座る。

「さて、琉偉君」
「はい、なんでしょう」
「明日は私も琉偉君もおやすみです」
「そうですね」
「休日会議をはじめましょう」
「はぁ」

「返事はしっかり!」

「はい!」

 なんだ、休日会議って。あれ、人気ドラマのシーンにこういう似たようなのなかったっけ。予算会議みたいなやつ。

「明日は特にお互い大きな予定もありませんね」
「えーっと」
「ありませんよね?」
「はい」

 有無を言わせない言葉遣いに思わず頷いてしまった。まぁ大した事はない。好きな小説の続編が発売されたから、買ってきてじっくり読もうかと思っていただけだ。

「これに、一緒に行きませんか!」

 じゃん!と差し出されたのはテレビや駅の広告でよく宣伝されているアート展のチラシだった。なるほど綺麗なものが好きな彼女らしい。

「……え?……それだけ?」
「ん?うん」

 なんだ、その盛大な前振りは。緊張して損した。

「いいよ、一緒に行こう」
「わーやった!言質取った!」
「取り調べか」

 椅子を蹴って立ち上がり両手を挙げて喜ぶ彼女と打って変わって、俺はがっくり来て机に崩れ落ちた。

「……琉偉は、人混みとか暗いところ苦手かなぁって」
「ああ、」

 そういうことか。

 俺は昔から、人とはちょっと違うものが見える体質だ。死んだ奴が見えることもあるし、いきものではないやつを見ることもある。人混みが苦手なのは、人ではなくその人間が連れていたり背負ったり、あるいはとり憑いているそいつらが苦手だから。いい奴だろうと悪い奴だろうと、見えて話せると相手に気づかれると色々面倒だ。厄介なのに付き纏われて、死にかけたこともある。だから人混みが苦手だった。

「気にしなくていいよ。紗夜が行きたいなら行こう」
「うん、いきたい」

 もしかして、紗夜が普段あまりデートしたがらなかったのは、俺のその体質を気遣ってくれてたのか。最高すぎないか、俺の彼女。

「紗夜」
「なに」
「好き」
「うるさい」

 

 

 

 

 

「綺麗……」

 人混みをかき分けた先、たどり着いたガラスにべったりと貼り付いて、水槽を見つめる紗夜がうっとりとそうこぼした。色とりどりの金魚が、カラフルな照明に照らされて鮮やかに踊るように泳いでいく。

「金魚の尻尾は、オーロラみたいだね」

 ギリギリまで照明の落とされた空間、ゆっくりと七色に色を変えていく姿と揺らぐ尾ヒレは、たしかに小さな無数のオーロラに見える。さっきから背後に感じる、気味の悪い気配は完全に黙殺しているが、すでに肩が重い気がする。

「今度はあっち行こう!」

 俺が暗闇の中、こっそり顔色を悪くしているのに気付いたのか、次から次に紗夜が俺の服を引っ張って進んで行く。いや、前しか見ていないから気のせいか。はしゃいでるだけか。どちらにしても紗夜のこの天真爛漫な姿がありがたい。

「いつか、本物のオーロラも見に行こうか」

 俺がぽとりとこぼした言葉に、紗夜が驚いたように振り返った。きらきらした目には、七色の光が揺れている。

「それもいいけど、この後どうする?本屋行こうか。琉偉がいつも読んでるシリーズ、新しいの出てたよね。噂によるとね  

 やっぱり、俺の彼女は最高だと思う。

 

 

 

(妖怪三題噺様より「金魚」「オーロラ」「序文」https://twitter.com/3dai_yokai