キスにご執心。
「ねぇ琉偉知ってる?」
学校からの帰りの電車で、突然隣に座る紗夜がこちらに乗り出してきた。勢いよく動くから彼女の持ってるリプトンのパックが溢れないかが気になった。
「何が?」
「キスするとストレスホルモンが急激に下がるんだって」
そう言われてついうっかり唇に目がいった俺を許してほしい。放課後校門で合流した瞬間からずっとご機嫌斜めで、駅へ向かう途中に季節限定のリプトンを買ってあげた。その後もひたすら無言だったので、携帯見つめて何をしてるのかと思ったら。
「次うっかり担任に”私はこれが生まれ持った髪そのままですけど先生のは違いますよね?”って言いたくなったら琉偉にちゅーしにいくね」
どうやら今日またクラス担任に髪の色が薄いことを指摘されたらしい。保護者の念書があっても日々日本人離れした茶色い髪のことをことあるごとに言われるらしく、それがストレスだとよくこぼしている。……曰く、お前はかつらのくせに、と。
「人前ではやめてね?」
ちなみに俺は学生らしい節度を保った交際をしろと日々俺の担任に嫌味を言われている。俺は保とうとしてるんですけどねぇ……一応。
「物陰に引きずりこめばいい?」
「紗夜ちゃん男前ー」
「それほどでもー」
唇から目をそらすために顔も一緒にそらしたら、少し遠くに座ってる大学生らしいお兄さんに一瞬殺意を持った目で睨まれた。ああ、爆発しろって思われてるなぁ。
「琉偉琉偉!愛情ホルモンも増えるんだって!試してみよ」
「うんわかったわかった。ここ電車だからね、人いるからね、」
「気にすんな気にすんな」
「降りたらねー!」
そらすだけでは心許なくて鞄でガードした。そういえば、初キスも普通に紗夜にかっさらわれていった気がする。男としてそれでいいのかと情けなくなりつつも、相手はあの紗夜だからしょうがない。多分彼女に振り回されて生きるのが俺の運命だ。
(妖怪三題噺様より「ホルモン」「電車」「キス」https://twitter.com/3dai_yokai)