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うたかた。

小説散文ときどき日記

友達が死んだ。

三題噺

 友達の祐一が死んだ。交通事故死だった。
 中学からの古い仲であり、当時仲の良かったメンバー数人と一緒に葬式に参加することになった。のはいいのだが、俺は少しげんなりしていた。式場に入って早々いやな気分に見舞われる。肩が重いし頭痛が酷いし吐き気はするし耳鳴りは煩い。祐一じゃなくて別のやつだ。視線は感じるが絶対に振り向いてやるものか。勿論どこかに祐一もいるだろう。祐一とは会って話したい。そのために来た。

「ねぇ大丈夫?」
「帰りたい」

 気にかけてくれる紗夜にうっかり本音が溢れた。彼女の声は、耳の閉塞感が常にあるにも関わらず澄んで聞こえる。

  おーい琉偉こっちこっち!

 完全に聞こえた。祐一の声だ。恐る恐る視線を上げればすでに厳かにはじまっている式の中、自分の棺の上で胡座を組んで座っている奴がいた。何やら元気そうで安心した。よく直後だと落ち込んでいたり混乱しているから尚更だ。ほっとしたものの、遺族や彼を悼む者が涙を流しながらそこにいるのでここで笑顔で彼と話をするわけにはいかない。

  話がわかるやつがきた!俺の声聞こえるんだろ?

 俺は祐一と視線を合わせて、こっそり小さく首肯した。続いて遺族に向かって丁寧に礼をして、焼香の列に並ぶ。

  なぁ琉偉なら知ってるか?死んだら食いもんってどうなるの?俺先輩の奢りで焼肉食いに行く途中でさぁ……すっげぇ焼肉が心残り

 俺は死んだことないのでわかりません、というつもりで小さく俯いたまま誰にもわからないよう首を振る。

  無理なのかわからないのかどっち?あああ喋ってたら食いたくなってきた焼肉!焼肉!!ねぇ坊さんのおっさん!俺焼肉食える!?焼肉!焼肉!!

 わかった、お前の母親に仏壇に供えるように言うから読経している坊さんに向かって焼肉を大声で連呼しないでくれ。

  このおっさん全然俺の声聞いてくれねぇんだよ。……おっさん頭てっかてかだなぁ木魚にそっくり……叩いたら木魚みたいな音出んのかな……あ、鼻毛出てる。しかも鼻くそついてる。

 思わず吹き出しそうになって慌てて口元を押さえた。絶対こいつわざとやってる。そして読経の声が一切淀みない坊さんを尊敬する。本当に聞こえてないのか。聞こえてないだろうな。俺ならこめかみの血管ぴくぴくする自信がある。

「琉偉、大丈夫?」

 隣の紗夜が気遣ってくれるのを手で制した。違うから大丈夫。気分はもう悪くない。ただ笑いを堪えてるだけだ。言いたい。言えない。言ったら最後笑う。

  あっ紗夜ちゃんだ紗夜ちゃーん!琉偉なんかほっといて俺と楽しいことして遊ぼうぜ!

 一体どうやって遊ぶんだよ。何して遊ぶんだよ。なんだよ楽しいことって。睨みつけたら嬉しそうににやにやしはじめた。やっぱりこいつ、わかってて坊さんじゃなくて俺で遊んでるな。……まぁ、おかげで笑いの波は治まった。

「どうしたの琉偉」
「大丈夫」

 このカオスな状況でどんな表情をすればいいのかわからなくて、とりあえず真顔で紗夜の肩をぽんぽん叩いておいた。

  俺の式でいちゃつくなよー

「うるせぇ」
「琉偉?祐一いるの?」
「うんいる。うるせぇ」

  お前は相変わらず紗夜ちゃんのことになると人格変わるよなぁ。俺もそんな彼女ほしかったよ。……まぁ!天国で作る予定だけどな!

 ようやく焼香の順番が回ってきて、正面から祐一を見た。お前ならすぐできるだろ、と微笑みつつ焼香をする。両手を合わせると明るい声音でさんきゅーと笑う声がした。

  でも俺には線香の煙が焼肉の煙にしか見えねぇ。焼肉……どうしよう俺焼肉が未練で成仏できなかったら。

 幽霊って生きてる人間の方から触れたりできないのだろうか。できることなら一発こいつを殴りたいと思った。

 

 

 

 

(妖怪三題噺様より「友達」「肉」「式場」https://twitter.com/3dai_yokai

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