うたかた。

小説散文ときどき日記

2017-01-01から1年間の記事一覧

どきどきルーシー連想ゲーム

俺の彼女は変わっている、と思う。 「ルーシーかわいいよね」 餡パン片手にテレビを見ながら、突然紗夜がぽつりとこぼした。ちなみに彼女はお笑いの番組を見ていた。誰だ、ルーシーって。テレビに映る人物にはそんな外人の名前をしているであろう顔は見当た…

小林くん

「おはよう古賀君!」 「……おはよう、」 キラキラと振りまかれる笑顔が直視できなくて、僕はそっと目をそらして挨拶した。けれど彼はもう他の生徒への挨拶回りで忙しく、僕の方を向いてなどいない。 僕は、小林くんが苦手だ。クラスの人気者である彼はいつも…

十八歳、海の底。

男は、私を片腕に抱いて眠っている。触れあっている剥き出しの肌はまだ、十分な熱を持っていて、しっとりと濡れていた。二人でくるまったタオルケットごしに、時折吹き込む冷房の風が心地いい。 男の寝息に合わせて、ゆっくりと呼吸をする。目を閉じて、長い…

禁断の果実

「ようこそおいでくださいましたお嬢様」 ああこれは夢か、とすぐに気付いた。真っ黒闇にスポットライトを当てた空間に、男が一人、立っていた。タキシード姿の男は顔に白塗りの、ピエロの化粧を施している。その男が被った帽子を手にとって、恭しく礼をした…

合わないレンズ

「私、結婚するんです」 最近度の合わなくなった上に、レンズが汚れ曇ってきた眼鏡がずり落ちた。頭の中がからっぽになってしまい、放たれた言葉がその空洞に虚しく響く。目の前の彼女を恋人だと思っていたのは、僕だけだったのだろうか。だとしたらなんて滑…

カンシュ

ふと気づくと、私は見知らぬ場所にぽつんと立っていた。目の前に立つ鳥居は不気味なほど真っ白い色をしている。敷石も白い。空も白い。これは夢だろうか。 ……私は、一体何をしていたんだっけ。 泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。 ……でも、どうして、泣い…

夕陽の色

あしやくん。図書室でいつも会う隣のクラスの不思議な男の子。 こんなにきれいな男の人を、私は彼以外に見た事がない。 男の人にきれいといってはいけないのかもしれないけれど、どんな男の子よりも女の子よりも、美しい人だと私は思う。 先生と文芸部はこの…