うたかた。

小説散文ときどき日記

どきどきルーシー連想ゲーム

俺の彼女は変わっている、と思う。 「ルーシーかわいいよね」 餡パン片手にテレビを見ながら、突然紗夜がぽつりとこぼした。ちなみに彼女はお笑いの番組を見ていた。誰だ、ルーシーって。テレビに映る人物にはそんな外人の名前をしているであろう顔は見当た…

小林くん

「おはよう古賀君!」 「……おはよう、」 キラキラと振りまかれる笑顔が直視できなくて、僕はそっと目をそらして挨拶した。けれど彼はもう他の生徒への挨拶回りで忙しく、僕の方を向いてなどいない。 僕は、小林くんが苦手だ。クラスの人気者である彼はいつも…

十八歳、海の底。

男は、私を片腕に抱いて眠っている。触れあっている剥き出しの肌はまだ、十分な熱を持っていて、しっとりと濡れていた。二人でくるまったタオルケットごしに、時折吹き込む冷房の風が心地いい。 男の寝息に合わせて、ゆっくりと呼吸をする。目を閉じて、長い…

禁断の果実

「ようこそおいでくださいましたお嬢様」 ああこれは夢か、とすぐに気付いた。真っ黒闇にスポットライトを当てた空間に、男が一人、立っていた。タキシード姿の男は顔に白塗りの、ピエロの化粧を施している。その男が被った帽子を手にとって、恭しく礼をした…

合わないレンズ

「私、結婚するんです」 最近度の合わなくなった上に、レンズが汚れ曇ってきた眼鏡がずり落ちた。頭の中がからっぽになってしまい、放たれた言葉がその空洞に虚しく響く。目の前の彼女を恋人だと思っていたのは、僕だけだったのだろうか。だとしたらなんて滑…

カンシュ

ふと気づくと、私は見知らぬ場所にぽつんと立っていた。目の前に立つ鳥居は不気味なほど真っ白い色をしている。敷石も白い。空も白い。これは夢だろうか。 ……私は、一体何をしていたんだっけ。 泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。 ……でも、どうして、泣い…

夕陽の色

あしやくん。図書室でいつも会う隣のクラスの不思議な男の子。 こんなにきれいな男の人を、私は彼以外に見た事がない。 男の人にきれいといってはいけないのかもしれないけれど、どんな男の子よりも女の子よりも、美しい人だと私は思う。 先生と文芸部はこの…

老人と睡蓮、魚たち。

夢の中で、不思議なおじいさんと会った。 ふと気付くと目の前に女性が立っていた。まるで天女のような美しい女性が、淡々とした声で本来は会話も許されませんが、とそっと私をおじいさんの元へ促した。 どうやらおじいさんに付き従う世話役の人らしい。 ……本…

白い虚空に眠る

「蛇さん、ドーナツ、食べる?」「食えるか!」 何度言えば、こいつは俺に人間の食い物を与えようとするのをやめるのか。いや、今のこいつには前世の記憶がないから無駄なのか。 「神戸に修学旅行で行ってきたの。そのお土産」 太い枝に腰掛け、投げ出した足…

どきどきアート展デート

「琉偉君琉偉君」「なんでしょう紗夜ちゃん」「ちょっとお話があるのですが」 紗夜は俺の事を昔から呼び捨てしているはずだが、突然謎の君付けをはじめた。ので、なにかあるだろうと踏んでいたら、やはり意味深な言葉が返ってくる。心当たりもないのにどきり…

どきどきクリスマスディナー

「ねぇ、紗夜のとなりにさ」「……え?」「外国人の霊がヨダレ垂らしてこっち見てる」「えええええええ」 幼馴染の琉偉はいわゆる見える人である。昔から好奇心旺盛でなんでも知りたがりだった幼い頃の私は、そんな琉偉の見ている世界を事あるごとに面白がって…

幸せな男の話

人は死の直前に見せる表情が一番美しい。その姿を愛おしいとさえ感じるのは、私が狂っているからだろうか。 この仕事を続けているのは、人である私にはこれしか生きる術がないからだ。私は人を壊すことでしか私を証明できない。私を形づくるものはこれしかな…